26人が本棚に入れています
本棚に追加
学校帰りに通り道でもないのにそこに寄ってみたのは知っていたから。
紗苗さんに聞いていた。紗苗さんとこう君がギターを弾いていた河原のこと。
紗苗さんが亡くなってすぐの頃はこう君に会ってみたくて、あの日待ち合わせに遅れて理由を聞きたくて、用事がなくても通っていた道。
結局こう君らしき人をそこで見たことはなかった。
最近は行っていなかったけど、久しぶりに行ってみようと思った。
その場所に近づいてギターの音が聞こえてきた時は心臓がどきどきした。
駆けだしたくなるのをこらえて、意識してゆっくり歩いた。
ようやく見えたその後ろ姿が昨日図書館で会ったその人と同じだと気が付いて、私は嬉しくて泣いてしまいそうだった。
やっぱりあの人はこう君だったんだ。その気持ちでいっぱいだった。
後ろから様子を伺っていると突然歌が途切れた。
かつて紗苗さんと二人で何度も聞いて歌った曲。
気がついたら歌っていた。音が途切れると私はこう君の隣に腰を下ろした。
そしてギターを見る。このギターで紗苗さんも歌っていたのだろうか。
「ちょっと前に音楽で習った曲なんです」
そう言った自分に驚いた。
うちの学校は進学校なので音楽の授業はない。
どうして嘘を吐いたのか分からない。
だけど私は紗苗さんとの関係を隠したかったのかもしれない。
そう、私は紗苗さんとの関係を隠して、こう君が紗苗さんの死についてどう思っているのかを知りたかった。
話しているとこう君は言った。
「うまいとかうまくないとか関係なく、楽器は楽しむことが大切なんだ。それって結構難しいことだよ」
紗苗さんの言った通りの人だと思った。
素直で優しくて、自分にない人の才能を手放しに誉めることのできる人。
紗苗さんはこう君をそう言っていた。
そして同時に思った。こう君はもう楽器を楽しむことができないんだ、と。
最初のコメントを投稿しよう!