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「三上麗奈です」
先に名乗る。こう君もきっと知っているだろう、アオイから私を遠ざけるために。
私がアオイだと勘づかれないように、私とアオイを切り離すために。
こう君の名前は知っていた。
「朝賀弘介さん」
そう呟くと、それまでとは違った何かが込み上げてきた。
私の中でこう君が初めて実体を持った瞬間だった。
私はようやく見つけたこう君、弘介さんをまた見失うつもりはなかった。
しっかりと明日の約束をして、その場を去った。
私が帰って行く方向は、本当は家から正反対だった。
だけど、家に帰ろうと思ったら学校の方に戻らないといけないから。
弘介さんが不自然に思ったら困るから遠回りをして帰った。
それから私はギターを教えてもらうことを口実に弘介さんと河原で会うようになった。
弘介さんがたまに紗苗さんの話をする時は実はすごくどきどきしていた。
だけど何でもないふり、何も知らないふりをした。
ある日私は言っていた。その前に色々あって疲れていたのかもしれない。
「……私は、弘介さんを好きになってしまったんですけど」
そう言ったときの私は自分でも何を考えているか分からなかった。
そう言うことで弘介さんとの距離を縮めようとしたのかもしれないし、弘介さんを好きなふりをして前の彼女である紗苗さんのことを聞こうとしたのかもしれない。
それは私にも分からないことだった。
「僕は麗奈ちゃんを好きになれない」
弘介さんのその言葉は、私には「紗苗さん以外を好きになれない」と言っているように聞こえた。
嬉しかった。すごく嬉しくて頬が緩んだ。
弘介さんはまだ紗苗さんを忘れていない。紗苗さんのことが好きだ。
そう思うと本当に本当に嬉しかった。
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