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今でもその手紙は本に挟まっている。
渡そうとは思っているけど渡せない。理由は私にも分からない。
先ほどまで二人でいた河原に戻ってきた。
並んだ小さな雪だるまはもう溶けかかっている。
弘介だるまと紗苗だるまが仲良く寄り添っている。
ここに私は要らない。私は麗奈だるまとあずだるまを少し離れたところに置いた。
私が卒業式を終え、いつもよりも少しだけ早い時間に河原へ行くと弘介さんはもうそこにいた。
もしかして待っていてくれたのかな、と思ったが、確認するようなことはしなかった。
そんなことはどっちでもよかったから。
私は自分の進路について弘介さんには何も話していなかった。
だけど、東京へ行く、と言っても弘介さんは全く驚いた素振りを見せなかった。
もしかしたらなんとなく分かっていたのかもしれない。
これが最後だ、と思って私は言った。
「やっぱり私ではだめですか?」
それに弘介さんが頷かないのは知っていた。
だけどなぜか少しどきどきした。
そんな私のどきどきも知らずに弘介さんははっきりと言った。
「そうだね、麗奈ちゃんではだめだ」
少しも迷うことなく言い切った弘介さん。
その時私は何とも言えない気持ちになった。
弘介さんがこう答えることは知っていた。他の答えなど望んでいなかった。
それなのにこの気持ちは何だろう。私には分からなかった。
だけど弘介さんは紗苗さんのことがまだ好きだったみたいだから、私が何度好きだと言っても全くなびかなかったから、あの日のことを許そうと思った。
私の許しなど弘介さんに必要ないだろうけど、弘介さんは私にその罪を裁いて欲しそうだったから。
だから罰の代わりに許しをあげた。一冊の本を弘介さんに渡した。
あの日、紗苗さんの部屋でもらった本だった。
もったいなくて結局それを読むことはできなかったけど、これは弘介さんが持っていたらいいと、私が思った。
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