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「えっと、僕に用?」
「さっきからずっと本を探しているようなので、何かお手伝いできないかと思って」
驚いた。が、納得もする。
僕が図書館にきてもう一時間。
つまり、本棚の前をうろうろして一時間。
この子がいつからここにいるのかは分からないが、見かねて声をかけてくれたのだろう。
だが、
「ありがたいんだけど、探している本のタイトルすら分からないんだ。だから、僕のことは気にしないで」
タイトルの作者も分からない無謀な探し物にこの子を付き合わせるわけにはいかない。
探している僕ですらもう嫌になってきているというのに。
「じゃあ作者も分からないんですよね? 内容とか表紙とかは?」
申し出を断った僕の言葉を無視して、女の子は言った。
「本当に無謀なことだから。君を巻き込むのは申し訳ないんだ」
再び断るが首を振られる。
「大丈夫ですよ。あまり長くは付き合えませんが、タイトルすら分からない本をそんなにも必死に探すなんて、どんな本なんだろうって」
私が気になるので一緒に探したいんです、と言って笑った。そう言われるともう断る理由が見つからない。
「それなら、お言葉に甘えてお願いしようかな」
正直に言うと、申し訳なさが三、ありがたさが七だ。
見つからなかったら見つからないでもいい。
だけど、本棚の本を片っ端からただ見ていくのは思っていた以上に苦痛だった。
それに図書館の不自然なほど静かな空気の中で一人うろうろしているのは、だいぶ人の目が気になった。
誰も僕のことなんて気にしてはいないだろうけど。
「それで、内容とか表紙とかは分からないんですか? 私、昔からここの図書館に通っているので、結構詳しいですよ」
ああ、そうだ、表紙だ。さっき思い出せそうだったんだ。
「表紙は、多分黒っぽくて……」
黒っぽくて、どんなのだ?
女の子は何も言わず僕を見ている。
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