私と私

5/7
前へ
/7ページ
次へ
―京子「杏ちゃんって、無理して良い子になろうとしてない?」 「えっ…」 杏じゃない、私の声がでた。 ―大和「俺にはよくわかんないけど、京子がお前に見えない壁を感じるんだとよ。」 ―京子「ちょっと!ストレートに言いすぎ!」 ―誠「まあでも、言いたいことは言い切っちゃった方がいいと思うよ?京子。」 「いや…あの…えっと…」 私が今まで考えに考えていたこと。 無理?無理などしてるわけがない。 壁があるなら、みんなから優しいだなんて思われない。 大丈夫、私は間違ってない。 ―京子「だから!私は本当の『杏』と仲良くなりたいんよ!最初は不安と緊張でうまく自分を出せないのはわかってる。私がそうやったから。でも、いつか、素を出せないことが、杏ちゃんの負担になるかもしれん。そんなの、私は見過ごせん。」 この物語はなんなんだ。 「先輩…」 一体何が目的で私を連れてきたんですか。 「止めないで、劇は終わってないよ?」 さつき先輩にさえぎられた。 「…ごめんなさい。」 この物語の中の「杏」は、今の私だ。今の『永谷遥』だ。 今の私が間違っていたとしても、それに気づいていたとしても、私にはできるのだろうか。「別の自分」からの脱出が。 抜け出せない偽りの「永谷遥」。 素に戻りたいと思っても戻れない、ずっとループしていた。 そんな自分がやっぱり、私は嫌いなんだ。 自分が嫌いなことを知っているのは自分が一番に決まってるのに。 「今の感情、そのままぶつけてごらん?」 裕太先輩がぼそっとつぶやいた。 「続けて、海人。」 さつき先輩の声で、再開する声劇。 ―大和「で、結局どうなわけ?杏。」 「私は…私は……」 自分に問いかけた。本当の私は、本当の「永谷遥」はどうしたいのか。 考えはまとまらなくて当然。どうしようもできない。 けど、そのぐちゃぐちゃな想いを「杏」にぶつけた。 心の内をぶつけられる人なんて周りにいなかった。 でも、「杏」だったら。物語の中の「杏」という登場人物だったら。受けとめてくれるんじゃないか、寄り添ってくれるんじゃないかって。ちょっとだけ思ってしまったんだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加