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―京子「杏ちゃんって、無理して良い子になろうとしてない?」
「えっ…」
杏じゃない、私の声がでた。
―大和「俺にはよくわかんないけど、京子がお前に見えない壁を感じるんだとよ。」
―京子「ちょっと!ストレートに言いすぎ!」
―誠「まあでも、言いたいことは言い切っちゃった方がいいと思うよ?京子。」
「いや…あの…えっと…」
私が今まで考えに考えていたこと。
無理?無理などしてるわけがない。
壁があるなら、みんなから優しいだなんて思われない。
大丈夫、私は間違ってない。
―京子「だから!私は本当の『杏』と仲良くなりたいんよ!最初は不安と緊張でうまく自分を出せないのはわかってる。私がそうやったから。でも、いつか、素を出せないことが、杏ちゃんの負担になるかもしれん。そんなの、私は見過ごせん。」
この物語はなんなんだ。
「先輩…」
一体何が目的で私を連れてきたんですか。
「止めないで、劇は終わってないよ?」
さつき先輩にさえぎられた。
「…ごめんなさい。」
この物語の中の「杏」は、今の私だ。今の『永谷遥』だ。
今の私が間違っていたとしても、それに気づいていたとしても、私にはできるのだろうか。「別の自分」からの脱出が。
抜け出せない偽りの「永谷遥」。
素に戻りたいと思っても戻れない、ずっとループしていた。
そんな自分がやっぱり、私は嫌いなんだ。
自分が嫌いなことを知っているのは自分が一番に決まってるのに。
「今の感情、そのままぶつけてごらん?」
裕太先輩がぼそっとつぶやいた。
「続けて、海人。」
さつき先輩の声で、再開する声劇。
―大和「で、結局どうなわけ?杏。」
「私は…私は……」
自分に問いかけた。本当の私は、本当の「永谷遥」はどうしたいのか。
考えはまとまらなくて当然。どうしようもできない。
けど、そのぐちゃぐちゃな想いを「杏」にぶつけた。
心の内をぶつけられる人なんて周りにいなかった。
でも、「杏」だったら。物語の中の「杏」という登場人物だったら。受けとめてくれるんじゃないか、寄り添ってくれるんじゃないかって。ちょっとだけ思ってしまったんだ。
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