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翌週。美女の顔をまとった私は、再び彼との逢瀬を楽しんだ。彼の手は美術品を扱うようにどこまでも慎重で優しくて、くすぐったくて。かつて失ったものが、今またここにある。それは本当に、夢のようだった。
「またこうして会えるなんて、夢みたいだ」
同じことを考えていたのであろう彼が、そんなことを言う。私ではない、誰かの名前を呼びながら。それは、私が名乗ったこの仮面の偽名だった。
名前を何度も呼ばれるたび、私は段々と気持ちが冷めていくことに気付いた。そうだ、彼が好きなのは、仮面の私だ。演じている私だ。それは私であるようで、私じゃない。元の私とは似ても似つかない、他人なのだ。どれだけ求めても、この仮面を外した私に彼が振り向いてくれることなんてない。そんな当たり前のことを、私は今さら理解した。
「楽しかったわ」
一晩明けたのち、私は彼に別れの言葉を告げた。どうせこの仮面を何度もつけることはできない。束の間の夢を見られただけで、よしとするべきだ。そしてその夢は、この仮面の生活を捨てる程のものではない。私はそう自身に言い聞かせ、彼の腕から離れた。
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