顔貸し屋

13/15
前へ
/15ページ
次へ
 ややあって出てきた店主は、私の顔を見るなり、おやおやと笑った。 「あんた、延滞者だね。あれほどダメだって言ったのに」 「すみませんでした……まさかこんなことになるなんて……どうにかこの仮面を外してもらえませんか?」  私の懇願に、しかし店主は首を横に振るばかりだった。 「残念ながら、規則は絶対なんだ。申し訳ないが、君はこれからその顔で生きていくことになる。もう、君の顔ももらってしまったことだしね」  もらってしまった? どういう意味だ。店主の言葉に、私は慌てて店内を見回した。そこには、『新入荷!』と札が貼られた、見慣れた顔が置いてあった。まごうことなき、私の顔だった。  どういうことだ。なんで私の顔がそこにあるんだ。それじゃあ仮面の下の私の顔は、今どうなってしまっているんだ。 「うちも顔がなくっちゃ商売にならないからね……その顔は人気商品だったから残念だけど」  慌てる私に言い聞かせるように、店主が囁いた。 「まぁ、その顔なら、きっと素晴らしい人生が待っているよ」  店主はそう言って愉快そうに笑い、店の扉を閉めた。私はもう一度扉に縋りつくが、店主が扉を開けてくれることはなかった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加