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泣いていたところで誰も助けてなどくれやしない。私は自動販売機で水を買おうと、千鳥足で光の方向へと向かった。だがどうしたことか、光はまるで蛍のようにふわふわと私から遠ざかっていき、商店街の奥へと飛んで行ってしまう。なんだ、自動販売機まで私を見捨てるというのか。私を助けてくれるものはないのか。この世に救いはないのか。
待て待てとぼろぼろの足取りで必死に追いかけていくと、光がとある店の前で止まった。古びた看板には、うっすらと『顔貸し屋』と書いてあるのが読み取れた。一体何の店なのだろうかと疑問に浮かんだのも束の間、私は酔いの勢いのまま扉に手をかけた。まぁ、どんな店だろうが、水くらいは融通してくれるに違いない。何の根拠もなくそう思いながら私は店の中に入った。
そこから記憶がいまいち曖昧になっていた。お店の中には確か、ずらっと仮面が並んでいて、不気味な店だと思ったことを覚えている。なんでこんなお店がこんな時間に開いているのかと不思議に思っていると、店主と思しき老人がいつの間にか私の傍に立っており、店の案内をしてくれた。曰く、この店では他人になれる仮面を貸し出しているのだとか、仮面を被るだけで他人になれるのだとか、そんなことを言っていた、はずだ。
酔っていた私は面白半分で適当な仮面を借り、その仮面を頭に巻いたまま家に帰り、眠りに就いて。
そして。冒頭へと至る。
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