顔貸し屋

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 私は仮面を手にしながら、ぼんやりとこれからのことを考える。とんでもないものを手にしてしまった。すぐに返すべきだろうか。確か店主は、貸し出し期間は一週間だと言っていた。ならば慌てなくても大丈夫だろうか。でもこんなとんでもないものを持っているのもどうにも落ち着かない。どうしたものか。  冷静になろうとコーヒーを淹れながら、私は今日の予定について思いを巡らすことにした。今日は買い物に出かける予定だった。ただでさえ出かけるのは億劫だった。誰に見られるか分からない化粧をして、それなりの衣服を着て。ただでさえそんな面倒なことをしなくてはいけないのに、こんな気分では。  そこで私はふと思いつく。他人になれるなら、男性になれるのなら、そんなことを気にする必要なんてないんじゃないか。そうだ、男性なら面倒な化粧もいらない。服だってラフなものでもいい。誰に見られようと、どうせ一週間後には返す顔だ。どうにでもなる。名案なんじゃないか。先ほどまでの暗い気持ちはどこへやら、私は再び仮面を身につけていた。
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