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いつか捨てようと思っていた元カレの衣服が、まさかこんな形で役立つとは。ちょうどサイズの合ったTシャツとジーンズを身に着けると、私はスマホと財布をポケットに入れ、サンダルを履いて玄関を出た。いつもより高い目線にくらくらしながら、足を踏み出す。歩幅が違うと、こんなにも歩く速度に違いが出るものか。私は初めて乗るロボットを操るパイロットになった気分で、自分の体を動かした。慣れてくれば大きく動く体はなかなか快適で、私は面白くなってずいずいと手足を動かした。
驚いたのはそれだけではなかった。電車に乗れば、いつもなら肩身の狭い思いをするところ、周りが勝手に避けてくれるのだ。恐らくこの体のせいだろう。私もこんな筋肉質な男性がいたら、少し距離を置く。なるほど、これが遠慮される側の気持ちか。特別扱いされているような気分になり、私はなんだか気持ちよくなる。いつもなら猫背で街を歩くところ、私は胸を張って道を歩いた。
私は予定になかった男性用の衣服を買い揃え、街を自由に歩く。いつもなら入るのを躊躇う小奇麗な喫茶店にも、颯爽と入れる。今までならこんな私が入るなんて身の丈に合わないと身構えていたが、今の私は私であって私じゃない。誰かが私を見たところで、明日には違う人間なのだ。なんて気分がいいのだろうか。
いつもなら憂鬱に過ごす休日は、そうしてとても快適な一日になったのだった。
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