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それから私は、顔貸し屋の常連になった。顔貸し屋は昼間は営業しておらず、深夜にひっそりと店を開いていた。こんな営業形態でやっていけるものかと思ったが、まぁこのお店なら需要が尽きることはないのだろう。実際、私が店を訪れる際には必ず他に客がいた。
店にはいくつか規則があった。この店のことは他言無用であること。同じ顔を続けて貸し出すことはできないこと。顔の貸し出し期間は一週間であること。規則を破る場合、もう顔の貸し出しはできないこと。
臆病な私は、絶対に規則を破らないことを誓った。このお店が利用できなくなってしまったら、せっかく見つけた楽しみがなくなってしまう。
そして私の週末は、以前の憂鬱なものとは違い、待ち遠しいものになった。私は毎週、違う人間になるようになった。
ある時は絶世の美女の顔を身に着けた。化粧の必要すらほとんどないその顔で街を歩けば、道行く人は皆振り返り、声を何度もかけられることになった。口を開けば誰もが私のことを肯定してくれる。私の自己肯定感の高まりは留まるところを知らなかった。
ある時は屈強な男性の顔を身に着けた。道を歩けば誰もが道を譲り、目が合えば向こうから目を逸らす。中身は臆病な小動物みたいなものなのに、おかしいこと。また、その身体を利用して、普段ならできない日曜大工にも手を出した。ずっと欲しかった本棚や家具を作るのに、男性の体はとても便利だった。
ある時は小さな子どもの顔を身に着けた。子ども料金でいろんな施設を利用し、日頃の鬱憤を晴らした。代謝のいい体は、好きなだけお菓子を食べても全く太らず、胃もたれもしなかった。私は好きなものを好きなだけ食べ、自由気ままに過ごした。
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