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ガチャ。家のドアを解錠して家に入ろうとしたその時。中から人が飛び出してきた。俺は出てきた人の足を踏んでしまい、その人は倒れた。
鉄の匂いがツンと鼻を刺激する。目の前には赤茶色のベトベトしたものが階段を流れ落ちていた。
俺はそれを見て気絶した。ガンッ。倒れた拍子に下駄箱の角に頭をぶつけた。カランカラン。下駄箱の上に置いてあったものが落ちてくる。そこで俺の意識は無くなった。
目を覚ますと白い天井が見えた。身体を起こすとカーテンで囲われていた。次に自分を見た。自分の身体に包帯やチューブが繋がっているのを見てああ、ここは病室なんだ、と気付いた。そしてどうしてこうなったかを───思い出せない。なんでここに僕はいるんだ。何が起きたんだ。少し固いベッドから降りてカーテンを開ける。そこには見知らぬ男が僕より悲惨な状態で横たわっていた。心電図には『68』と緑色の数字が出ていた。生きているようだが、目は覚ましていない。昏睡状態に陥っているのだろう。僕は病室の外に出た。そこには看護師がおり、僕の元へ駆け寄ってきた。
「竹崎さん、お身体は大丈夫ですか?」
「………………」
「あれ?お名前間違ったかな?竹崎さん?」
「………………」
なんか誰かを呼んでるな。誰を呼んでるんだろう。
トントン。後ろを向くと僕の肩を他の看護師が叩いている。
「なんでしょうか?」
「これからお身体の状態を確認致しますのでこちらにいらっしゃってください」
「あ、ありがとうございます」
僕は看護師から病院の地図を貰った。
僕がそこに行くと心拍数やレントゲンを撮られた。そしてよく分からないが鉛筆を見せて、これは何?と訊かれたりした。医師いわく、異常はないらしい。ただ……と続けその後に言葉が詰まってなんとか出たという感じだった。その後に続いた言葉は健忘症だった。いわゆる記憶喪失だ。名前は覚えていないが物の名前等は覚えていたので解離性健忘だと診断された。僕の名前は竹崎雄吾と言って隣のベッドで寝ている人と一緒に血を流していたらしい。彼の名前は蘇我仁と言うらしい。
それから一週間。僕の健忘症と仁さんの容態は変化しなかった───
そして二週間後。俺は仁さんより先に退院が決まった。そして仁さんは目を覚ました。その二週間後、仁さんも退院が決まった。しかし俺は仁さんに会わない。俺は健忘症でずっとありたい。
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