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双子神の終わるとき
「二人いるということは、僕たちには選ぶことが出来るんだよ。残るか、降りるか」
彼女の願いと彼の覚悟は、郁也にも分かっていた。けれど、郁也がそれを言い出すことなど出来はしなかったし、手を差し伸べることもまた出来ないことだった。
きっと彼らはこれまでずっと一緒に生きてきたのだろうし、これからも一緒にいたかったのだろうから。
宵は額を陽菜と合わせた。どこか満足げな、そして彼女を安心させるようにと祈りを込めた笑みを浮かべた。
「僕たちがはじめから御山を守る守神としてこの地に降ろされなかったのは、きっと僕たちが選べるようにとのお心だよ。姉さんは、好きな方を選べばいい」
宵は既に覚悟が出来ていた。泣きじゃくる彼女の手を取ったまま、宵はこちらを向いた。
「郁也。姉さんを、よろしくお願いします」
彼から、彼女の手を取った。彼はそのまま郁也と彼女に背を向けて、御山の奥へと姿を消した。彼を追おうとする彼女の手をただ握ったまま、郁也はその場に立っていた。
鳥居の前で、陽菜は足を止めた。この先を、彼女が歩んだところを郁也は見たことがなかった。いつも見送りはこの場所だった。片手はつないだまま、陽菜はその左手を硬く握った。郁也が先に鳥居をくぐる。それにつれられるように、陽菜がその両目を硬く瞑り、その鳥居をくぐる。
何も起こることもなく、鳥居をくぐり出でた。鳥居の向こうを幾度も振り返る彼女の手を引いて、郁也は山を下る。陽菜はただ硬く郁也の手を握っていたが、その手が震えていたことに、郁也は気づかないふりをした。
山を降りてみれば日はとっくに暮れていて、郁也が体感するよりも随分と時間が過ぎていた。
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