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双子の姉弟
時は戻り、季節は初夏。十歳の少年が一人山の中へと分け入った。この祖父母の住む町へ転居してきたばかりで、探検だと意気込んでいた。
木々の間をすり抜けて、道なき道を歩み進めて、どんどん上へと歩んでいった。今ならどこまでも行けるような気がした。
けれど、そんな彼もふと我に返る。随分歩いてきたけれど、果たして家はどちらだったか。周囲を見渡せば、同じような木々が立ち並んで目印などあるわけもない。
少し立ち止まって首を傾げた彼だったが、とりあえず先へ進むことにする。頂上まで行けば、自分の家も見えるかもしれない。
白木造りの小さな鳥居を潜り抜けたその先には、小さな祠。
そこへ、少年少女二人の子どもがいた。祠の前へ座り込んで、何やら楽しげに話をしていた。その二人はそっくりな顔立ちで、おもわずまじまじとその顔を見つめた。少女は長い小麦色の髪をお下げに結い、少年はともすれば少女と見まがうような中性的な顔立ちをしている。髪は少女と同じ小麦色。
そのうち、二人のうちの一人、少女の方がこちらに視線をやった。濃茶色の瞳と視線が合う。驚いて目を見開き、そっくり顔の少年と顔を見合わせた。
「どうする?」
「どうするもないよ、姉さん」
「そうだね。こーんにちは!」
にっこり笑って少女が言うので、少年はどこか戸惑いながらも返事をした。二人とも見たことのない顔だった。
「こ、こんにちは」
「こんなところまで珍しいねー? お散歩?」
「散歩っていうか、探検っていうか……」
半分くらい迷子になっている自覚はあったが、もう小学三年生だ。迷子になっているなど少し恥ずかしくて言いづらい。
「探検! いいね! 私もやりたーい」
そう少女はにっこりと笑う。その対のような少年もやんわりと笑う。
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