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そんなある日。友達と遊ぶのだ、というと、母は少し困ったようにも見える笑みを浮かべて郁也の頭を撫でた。遊びに行くのは少し待ちなさい、と言われ、少し不満に思いながらも郁也はそれに頷いた。
そうして母の準備も終え、リュックを背負って郁也は山へと向かう。
案の定、祠に彼女らは座っていた。いつも通りに楽しげに話をしながら。郁也の気配を察したのか、こちらを向いてにこりと笑んだ。
「そろそろ来るころだと思ってたよ」
にんまりと笑む陽菜に、返すように郁也も笑う。けれど、どうして彼らが自分の来るタイミングが分かっているのかは謎であった。以前聞いたことはあったけれど、その時ははぐらかされてしまったのだ。
やはり、今回も郁也は尋ねてみたのだが、答えは無いままだった。
それでも、郁也はやはりこの二人が好きだったし、楽しく過ごせるこの時間が好きだった。
彼らはこの山の中での出来事を郁也に話し、郁也は学校や家族のことを話した。何ということもない話ではあったが、やはり楽しいことだった。
そうして話をしているとき、郁也のお腹が低く鳴った。
「そうだ。ごはん、持ってきたんだった」
そう郁也は背中のリュックを降ろすと、その中から四角い二段の箱を出した。陽菜と宵が興味深げにそれを見つめる。郁也が蓋をあければ、上段には黄色に輝くほどの卵焼きから、ハンバーグ、ゆでた野菜にたこ型のウインナーといった定番のお弁当の具材が入っていた。下段をあければ、三角形のおにぎりがたくさん入っている。
「すごぉい!」
「お母さんが作ってくれたんだ。みんなで食べよう?」
そうして郁也がずいっと弁当箱を出すと、陽菜はそれをじぃっと眺めながら、それでもじきに視線をそらした。その目は弟の宵へむく。その視線を受けて、どこか困ったように、宵は笑んだ。
「ごめんね、僕たちは食べられないんだ」
「おいしそう、なんだけどねぇ。残念」
「……?」
そう首を傾げたが、二人ともただ曖昧に笑むだけで答えを告げることはなかった。郁也は「ダメなら仕方がないね」と、自分が食べられる分だけを食べてリュックへしまった。
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