御山のかみさま

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御山のかみさま

 そうしてたどり着いたのは大きな虚のある木の前。立派な注連縄が飾ってある。 「郁也、あのね――」「陽菜」  陽菜の後方から、少年特有のボーイソプラノが響いた。陽菜が彼を振り返るのと、郁也が彼女越しに彼を見るのは同じとき。そこに立つ少年――宵は、まるで自分の想像が当たったことを嘆くように、やんわりだがしっかりとかぶりを振った。 「――きっと、主様だって許してくれるわ。郁也はすごく良い人だよ? 御山のことだってちゃんと――」 「ダメだよ。それは、姉さんがよく分かってるはずだ」  先の見えないその話に、郁也は思わず問いかけていた。 「君達は、一体――――」  何者なのか。それは郁也が今まで問おうと思いながらも問いきれずにいたことだった。問いかけて、もし彼らとの関係がここで終わってしまうのが怖かったのだ。  少し困ったように陽菜が目を伏せた。宵は首を横に振った。陽菜は郁也の方へ向き直る。 「ここは、双子神の棲まう山」 「代々神は双子で生まれ、この地に根ざして空を、木々を、獣を、ヒトを見守り生きていく。それが定め」  ニコリと二人が見せたその笑みは、歳にそぐわぬ慈愛を帯びていた。 「私たちは、まだ『そう』じゃないけどね」 「僕たちはまだ、神でもなく人でもない。御山(みやま)の狐神の御許で育ち、現世を生きる、『あわい』の存在」  そうどこか謳うように告げる彼らは、自分が生きてきたその世界には居ない神聖さを持っているような気が、少年にはしていた。彼らの身にはそぐわぬ大人びた、どこか老獪ささえ感じさせるようなその言葉は郁也の身には難しかったが、それでも二人のまとう空気が郁也に状況を理解させた。
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