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「昔はね、郁也みたいにここへ迷い込んできた人々を御山の奥へと引き寄せてた。ホントはここに来ちゃダメだって言われてたでしょ? 『連れていかれる』から」
「けれど、人をよんだところで狐神さまの力は元に戻らなかったし、昔は御山を狩る話までされ始めた。それは、狐神さまも悲しんだ」
そうして見出した方法が、この地に溶け込み楔の如くに眠りにつくということ。
四季が巡るように、生きゆくすべての物が眠りにつき休息を得るように。この土地の神はこの世界へ殉じる如くにその身を投じて眠りにつき、この町を、世界を見守ることを選んだ。そして神がその身に力を再び蓄えるまで、その間の空座を埋めることとなったのだという。
それじゃあ、と郁也は首を傾げる。
「その神さまが眠って二人が神様になったら、もう会えない?」
「――僕たちのことは、見えなくなると思うよ」
「……じゃあ、それまでたくさん遊ぼう?」
郁也の言葉に二人は一度顔を見合わせて、「ありがとう」と笑った。けれどそれは、いつもの笑みではなくどこか痛みをはらんでいるように、郁也には見えていた。
郁也が二人と出会ってから六年、十六の夏。今日が最後になる、と困ったように告げたのは宵の方だった。
その時が来たのだと、彼はどこかさびしげに告げた。陽菜は郁也の方を見ずにその顔を俯けていた。握られた拳は微かに震えていて。
そんな中、口火を切ったのは宵だった。
「ねぇ、郁也。――姉さんを連れて、外へ帰ってあげて」
その言葉に、弾かれるように彼の方を見たのは陽菜だった。酷く怖いものでも見たかのように、震えるようにかぶりを振った。
「っ違う、嫌よ」
「姉さん」
そうどこかなだめるように、青年は笑んだ。
ぼろぼろと流れる彼女の涙をその手で拭い、彼は彼女が聞く気を持たない言葉を紡ぐ。
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