【 プロローグ 】

1/1
前へ
/16ページ
次へ

【 プロローグ 】

 さほど青くもない、この隅田川沿いのベンチで、ひとりそんな空を見上げた。 「東京の空は白いんだな……」  田舎で見る空の色とは、まるで違って見える。  ここの人たちは、空が青いっていうことを知っているんだろうか。  そんなことを思いながら、天に向けた頬の上に薄桃色の花びらが、ヒラヒラと一片落ちてきた。  もう、桜の季節も終わりを迎える。  頬についたその小さな花びらを二本の指で摘まむと、3年前のことを思い出した。  まだ、あの時のことを僕は引き摺っている。  ポツポツと白い天井から雨漏りをするように、周りのコンクリートが濃い灰色の水玉模様に変わる。  近くでくつろいでいた人たちも慌ててあちこちに走り出した。  この雨は「和金(わきん)ちゃん」の涙なんだろうか。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加