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【 出会い 】
そんな出会いから4か月。
季節はもう夏を迎えている。
この狭くて薄汚れている僕のアパートに不釣り合いなそれは、部屋のスペースをドンと陣取っていた。
とても美しいその中には、あの時と同じ、でも、とても小さな僕の大好きな天使が優雅に泳いでいる。
もう4か月、この小さな天使に僕は夢中だ。
部屋の右側、ベッドと反対側に置いてあるそれは、長さがおよそ1mほど。
赤みを帯びたピンク色のライトにそれは照らされて、深い水の神秘的で、幻想的な光と影のコントラストを僕に見せてくれる。
そのプクプクと音を立てている中で泳いでいる天使は、赤と白のとても小さな体をクネクネと左右に振りながら、自慢の三尾の開き尾をヒラヒラと靡かせて、かわいらしく泳いでいる。
「和金ちゃん……。今日も君はかわいいな……」
両手の平を頬に付けながら、その美しい苺色のアクアリウムの中を可愛らしく泳ぐ、和金ちゃんを今日も穏やかに眺める。
もう二度と、あんな出来事は起こらないと分かっているけど、どうしても君を忘れられない。
3年前の春……。
君とお別れして以来、僕はずっと君の残像を追っている。
だから、高校を卒業して、この東京の大学へ進学し、一人暮らしを始めた時、あの雨宿りで入ったアクアリウムのお店で、一目惚れをし、この苺色のアクアリウムと、とても小さな三尾の和金ちゃんを購入したんだ。
こんな大きな水槽に、こんな小さな、しかも金魚の原点種である「和金」を泳がすなんて、あの店主の驚いた時の顔が今でも思い出される。
「でも、僕は和金ちゃんがいいんだ……」
理由なんてない。ただ、そうしたかった。
彼女を忘れるためには……。
「僕は、いよいよ本物の変態になっちゃたのかな……?」
にやけた顔で水槽の近くから、部屋の反対側にあるベッドへと恥ずかしくなり、思い切りダイブした。
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