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最近、ご主人様の様子がおかしい……。
お出掛けから帰ってきたら、いつもなら真っ先にボクの所に来ていっぱい撫でてくれるのに、ここ数日は軽く撫でたらすぐに水浴び場に行ってしまう。
ボクの嫌いな場所。
どうして、ご主人様は一日一回は水浴びをするのだろう?
毛繕いなら、ボクが喜んでしてあげるのに。
前に一度だけやってあげようとしたら、
「顔を舐めるのはやめてっ」
って言われちゃったんだ……。しょんぼり。
でも、何だか今日はいつもと違った匂いがした。上手く言えないんだけど、いつものふわっと香る優しい匂いじゃなかったんだ。
気になって、仕方ない。
扉の前で右に左に、うろうろしてしまう。
本当は嫌だけど―――。
ええいっ! ボクも男の子だ。
ご主人様のためなら、キライな水浴び場にだって行ってみせるっ!!
忍び足でゆっくりと水音がする部屋へ向かったら、微かに鼻をすする音が聞こえたんだ。
ボクの三角の耳がピーンと立つ。
大変だっ、ご主人様が泣いてる……!
ボクが慰めなきゃ。
水が怖いなんて言ってられないにゃ。
「にゃあお」
つい気持ちが急いて、声が出てしまった。
ついでに後ろ足で立って、ざらざらした面の扉を前足でカリカリっと引っ掻いちゃう。
ご主人様、開けてっ。
「にゃあお!」
もう一度少し大きめに鳴いてみたら、勢いよく扉が開いた。
ボクは脇目も振らずにもくもくとした部屋の中へ飛び込む。
「え、ちょっ、どうしたの!?」
水を慌てて止めたご主人様の驚いた声が響く。
その目はほんのりと赤くなっていた。
―――やっぱり、泣いてたんだ。
ボクの大事なしっぽで拭き取ってあげるにゃ。
「……もしかして、慰めてくれてるの? 水、キライなのに」
「にゃーん」
当然でしょ。だって、ご主人様のことを一番よく分かってるのはボクなんだから。
ボクはいつだって、ご主人様を見守ってるにゃいとなんだよ。
こうやって、ふわふわの自慢のしっぽでご主人様を笑顔に出来るのは、ボクにしか出来ないことでしょ?
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