2.escape

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着替えを済ませてらせん状の階段を降りて行くと小さな玄関ロビーを掃除する老婦人に出くわした。  ほうきとちりとりを持った背の小さな夫人は自分達を見ると顔全体に皺を寄せて微笑みかけてきた。  弘一にはまったく理解出来ない言語で何かを話し掛けると雪刹が愛想よく答える。  開放したままの玄関をくぐる時に弘一はぺこりと会釈をした。  笑顔で自分達を見送る婦人を気にしながら弘一は雪刹に話し掛けた。  「何て言われたんだ?」  「ようやく外に出る気になったのね、と」  婦人の指摘に弘一はそういえば、と思い返した。  半ば勢いで日本を飛び出して辿り着いた異国の地。  雪刹が手配したのは観光地からは少し離れた田舎町の小さなホテルだった。  チェックインを済ませて通された部屋は思いの他こじんまりとしていて何だか久し振りに帰る実家のような懐かしさを感じられた。  ホテルの一階に在る小さなレストランで食事を済ませると部屋に戻り二人きりの時間を過ごした。  あえてテレビは点けずにラジオを使い、陽気なDJのワケの分からないトークと音楽に耳を傾けた。  昼も夜も関係なく触れ合い、疲れ果てると眠りに付く。  時計も日付も気にしない生活は先ほど見たカウンターのカレンダーで三日もしていたのだと気が付いた。  ゆっくりと歩く狭い路地は特に人通りが多いワケではなく、歴史的な情緒を感じさせる建物が並ぶ通りで何だかほっとさせた。  「まずは食事にしましょうか?」  雪刹の提案に弘一はあぁ、と答えた。
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