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1.May storm day
嵐は突然やって来た。まるで五月のそれのように…
照明が点けっ放しのリビングに人の気配は無く広いキッチンの流しには一人分の食器が水に浸けられていた。
縦長の洗面室は片側に最新式の洗濯機とワイドな洗面台が並びその先の磨りガラスがはめこまれた折り畳み式のドアには結露が垂れていた。
濡れたタイルから立つ湯気と同様にバスタブいっぱいに張られた湯からも上がる靄がバスルームを程好く温める。
蛇口から重力によってぽたりと落ちる雫が湯面を波立たせその先には張りの良い日焼けした艶やかな肌が在った。
濡れた黒い前髪から流れる雫を顔に伝わせて目を閉じるその横顔はよく日に焼けており健康的な肌色をしていた。
それ程深くない顔立ちに合わせて伝う雫が露になった首筋を通って湯面へと流れ落ちる。
じんわりと体を温める湯に溜まった疲労を総て流すかのように身を任せ気だるい溜息を付くとその名前を呼んだ。
「…り」
不意にぴくりと震える肩によってぱしゃりと水がバスタブに跳ねる。
「っ…は…」
目を閉じたままの顔の眉間に皺が寄り開いた口から喘ぎが零れた。
「…ぁ…ッ」
揺れる湯面の下で大胆に膝を割って露にした下肢を自身の手で執拗に弄る。
血管を浮かせて膨張しきった熱棒を手で扱きながら後ろの秘部に手を伸ばして指を挿入すると温かい湯の感触も感じられた。
「ぅ…ぁー」
無意識に足に力を込めて腰を浮かせるとより深くまで指を進めて行く。
もう少しなのに届かないそのスポットに焦れる体が震える。
「くっ…は、ぁーッ」
ばしゃばしゃと飛沫を立てながら乱暴に熱棒を扱くとやって来る生理的衝動を躊躇い無く解放した。
硬直させていた体から一気に力が抜けバスタブに浸かると何度も深い呼吸をする。
不意に顔を上げて自身の手の平を見つめるとべっとりと付いた白い粘液に思わず自嘲気味な笑いが込み上げた。
こんな夜更けに一人で風呂場で自慰に耽る。悲しい現実だが仕方が無かった。
同じ部屋に住む愛しい恋人は同様に不規則な生活を強いられる仕事をしているのだから。
「情けねぇな…」
がしがしと乱暴に頭を掻いて髪を掻き揚げたのは弘一だった。
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