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今は、バイト量が少なくても親の仕送りがあるから、贅沢を望まなければ、最低限暮らしていける。でも――「大人になった自分」が衝突する壁を思うと、未来が閉ざされていくような絶望感におそわれた。それは簡単に越えられない障壁になると知っていた。その齟齬を埋めるためには、果てしない摩擦や、不信感や、誤解が生まれるということも。そういうハンデがあるからといって、同情されるのも嫌だった。虚栄心だけは立派なくせに、取り繕ってばかりの自分を認めることもできなかった。数学が好きだったのは、ただ「解くのが楽しいから」だ。言葉の難解さに比べて、数学は決められたゴールにたどり着くだけでよかったから。いかに解に到達するかを試すためのものだった。
経済学部を選んだのは、さまざまな理論に基づいて分析する作業が、数学の証明問題に似ているような気がしたからだ。そういう分野は「理論経済学」と呼ばれ、より現実の経済に対応するのに必要になる。そう思って入ったのに、講義はサボりがちだった。数学の問いの答えは簡単に見つけられるのに――僕は将来の道筋を思い描けないままだった。
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