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「なんか、やる気でなくてさ」
適当に出てきた言葉を言うと、雅人は軽く吹きだした。
「五月病もほどほどにしとけよ。ていうか、もう六月だろ?」
「だね」
学内の知り合いと話すことすら、とても久しぶりだった。他者と深く関われないとあきらめている一方で、ときどき無性に、(性懲りもなく)人恋しくなってしまう。高校のとき、カスミに求められることが、僕は嫌いではなかったのだ。僕は、自分で思う以上にさみしがり屋なのかもしれない。だから何の用もないのに、こんな場所に来てしまう。ポッカリ空いた時間を消化できなくなってしまう。大学は「人生の夏休み」なんて言われることがあるけれど、『有意義な時間の使い方』なんて、僕にはとてもできそうにない。
「飯、まだなら一緒に行く?」
それを察したように、彼は僕に問いかける。彼がここで恋人を待っていることは分かっていた。雅人の彼女は文学部で、司書課程を受けている。そのためこの時間帯、ここで待っていることも。
「いや、ちょっと寄っただけだし」
僕はそう言って遠慮すると、明道館をあとにした。結局のところ、誰かと話したかっただけなのだ。一人暮らしで何のサークルにも所属していないと、人との繋がりは希薄になる。だからこんな風に、ときどき会話を欲してしまう。
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