第1話 雪月花

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第1話 雪月花

「初めまして。月村 (かなで)です。」 そうして、高校生活が始まった。 このクラスは22人。男女の比率は1:1。 一体この中の何人を、名前を付けて覚えられるのだろうか。不安に駆られる初日。 先程、体育館の壇上で校長が言っていた 「夢と希望を持って如月高校に入られたと、思います。どうか実現できますように。」 と。  一体どうなのだろうか、夢と希望と言うよりは、不安と絶望な気もしなくはない。友達100人できるかな、と期待をして入った小学校だって、今や2人くらいしか連絡を取れる友達はいないし。青春を謳っていた中学校でだって、春は順当に4度訪れたが、青くはなかった。高校では夢と希望。果たして、この3年間は一体どうなるのだろうか。  「初めまして、担任の諏訪部だ。この高校ではクラス替えはない。3年間このままになるので、絆は深めておくようにな。さて、言った手前だ。一通り自己紹介はしてもらったが、覚えきれないだろう。このLHRは周りと挨拶でもしておけ。」 担任の諏訪部 清司(せいじ)。名前の通り、誠実そうな男だ。疲れそうで好感は持てないがね。 「隣、よろしく」 声をかけてきたのは、隣の男子生徒 「よろしく、月村 奏だ」 「うん、花本 (しおり)だよ」 栞は、口数の少ない大人しい人だった。多分、人付き合いは苦手なのだろう。と、思うのも失礼なのだろうが。  周りはもうガヤガヤとしている。何故こうも馴染むのが早いのだろうか。僕は、僕らはこうも沈黙が続いているというのに。 「奏は、どうして、この高校に?」 「成り行き、なんとなくだよ。」 うん、これは僕にも非はある。会話が下手すぎる。続ける気が皆無すぎる、栞に悪い気もしてくる。 「そう、なんだね」 「あー、うん。えっと、栞は趣味とかある?」 「月並み、だね。そうだな、音楽とか。」 「音楽か、よく聞くアーティストとかいるのか?」 「ホルスト、とか。」 「ホル…?ごめん、最近のアーティストなのかな、よく知らないんだ。」 「イギリスの、作曲家。惑星が、有名。」 「…あー、うん。よく知っていた。作曲家をアーティストって読んでいいものなのかな。」 「君が、そう聞いたから。」  鐘が鳴る 「よし、次の時間から様々な教科でオリエンテーションがあるだろうが、集中してやるんだぞ。」  仲良くなれたのか、一抹の不安を抱えながら、オリエンテーションをこなして行く。 「奏、ご飯、行かない?」 「あぁ、学食か。うん、行こう。」  安心していいみたいだ。ご飯を誘われるくらいには仲良くなれている。 「ねぇ、見て。あれ。今日初日だよね。なんで、男女が、ご飯食べてるの」 「栞、お前意外とそういうの気にするのな」 「おかしい、だって初日なんだよ。」 「所謂、陽キャってやつだろ。僕らには関係の無い次元の話だよ。」  なんて、おどけてみせる。いや正直羨ましい。うん。 「うわっととと」  襲い掛かるうどん。初日、中頃、制服は大惨事。 「いてて…なんもない所で転ぶかな普通…やだなぁ…うどん取り換えてくれるかなぁ…」  まるで自分の世界という風に、うどんに襲われた僕に見向きもしない。 「うわぁ!!!!うどんまみれだ!!ごめんなさい!!今拭きますから!!!制服ってクリーニングかな…クリーニング代、は高そうだから親に相談します!!」 「いや、大丈夫…保健室に行ったら替えくらいあるんじゃないかな。」 「そ、そういうものかな?でも、ごめんなさい…」  テンプレなドジ、天ぷらはエビ。僕は栞に一言言って、保健室へ制服を借りに行った。 「そう、なの。惑星は、いい曲だよね。」 「うんうん!分かる!みんなは木星がいいって言うけれど、私は火星が好きだなぁ。」  なんということだろう、ホルストで盛り上がっていた。僕の入る隙は無さそうだ。 「あ、さっきの!!うどんの!!」 「その呼び方は辞めてもらいたいな、月村 奏だ」 「桃原!桃原 (ゆき)です!」 「奏、桃原さん、音楽やってるみたい。僕も、音楽やっている。」 「え、そうなの??」  なんということだろう、音楽で共通の趣味とか羨ましい。僕の入る隙は有るようだ。  しばらく話していると、桃原さんはギター、栞はベースをやっている事が分かった。なぜ、それでホルストで盛り上がれるんだよ。どクラシックだろ。と心の中のツッコミ担当が騒いでいた。 「奏、何かやってなかったの?」 「そうだよ!!奏くんも何かしてなかったの??こういう出会いの時って、何かあるものだよ!!!」 「あー、ピアノを。」 「「ピアノ!!!」」 「よし!私は気付いちゃったよ!3人とも!!曲を作るよ!!!なんちゃってバンドを作るよ!!」  桃原さんの思いつきで、なんちゃってバンドを作る運びになった。いつやるか、何をするか、どこでするか、全てがふわふわなバンドが今ここに出来上がった。  しかし、決まったことが1つだけある。 「それで、そんなふわふわなバンド。バンド名などうするんだ?放課後ティータ…」 「それはダメ!ダメだよ!あのね、気付いたことがあるの。月村 奏、花本 栞、桃原 雪。名前にこの漢字が入ってるの。だから、バンド名は」
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