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第2話 余りある空っぽ
「で、活動は?」
「んーーーと、まずはこのお菓子を食べちゃおうよ!!」
ふわふわに始まったバンド「雪月花」
桃原さんから
「今日!サークル棟に集合!話つけてこよ!」
とグループLINEが飛んできていたので、一体誰に何の話をつけるのか考えつつ向かうことにした。
「やほ!奏くん、早かったね!!」
「奏、おはよう。」
「見たところ、僕が1番遅かったみたいだが」
「私たちの!バンド!雪月花!これをね!サークルとして認めてもらうんだ!!」
「あー、話をつけるってそういう。」
「そうなんだよ!!奏くん!栞くん!打倒先生だよ!」
「倒しちゃ、許可貰えない。」
桃原さんは、まるで苦虫を潰したような顔で、両足を夥しい量の霊に掴まれている様な足取りでこちらに来た。
「なんか、結果が見えている気もするけど、どうだった?」
「…惨敗。」
「あの、家、使う?」
「え!!!」
機嫌直るのはっや、まだなんも聞いてないじゃねぇか
「僕の家、防音室あるんだ。嫌じゃなけ「使わせてもらいます!!!!!!」れば…」
「最後まで聞けよ、でもありがとう。」
そして冒頭に話は戻る。
「で、活動は?」
「んーーーと、まずはこのお菓子を食べちゃおうよ!」
何せ、ふわふわに決まってしまったバンドなので、栞の家に言って、厚かましいことにお菓子を出してもらい、それを貪っている次第なのだ。痛ましい。これの何がバンドなんだ。
~♪
「桃原さん、電話かかってきてるよ。」
「雪でいいよっ!ちょっと出るね!」
唐突の下の名前呼び宣言。こういうのに弱い僕は割とチョロいんだろうなぁと考えながらぼーっとしていると、栞がニヤニヤとこっちを見ていた。やっぱりお前こういう話題好きだろ。
「ごめんっ、ちょっと友達と急用ができて…なんか曲作ってて!!!」
「なんか曲って…」
「いっちゃったね。」
「どうするよ。」
「今日は、一旦、解散しよう。」
「そうしよう。」
これから、雪に振り回される未来が見えてしまった気がする。そんな集会になってしまった訳だが、心持ちは何故かウキウキしていた。この気持ちに名前をつけるのはまだ早い気がして、そっとしておいた。
帰路に立ち、曲を作ってと言われたのを思い出す。
「曲を作れ、って言うとまず歌詞なのかな。」
歌詞、と一言に行ってもそんなものを作った経験は1度もない。なにか力になれれば、と作ろうとしたのは良いものの…。
力になれば?
案外、僕はバンドを楽しみにしているのかもしれない。素っ頓狂に決まって、内容はふわふわでチグハグなのに、まだ出会って1ヶ月と経たないのに。
今までの人生、何かを楽しみにしたことがあっただろうか。あったんだろうが、記憶に残るほどのことは無かったと記憶している。僕は、そこそこな空っぽだ。でもだからこそ、こんな経験がとても染み渡る。
あぁ、そうか。チグハグでいいんだ。僕は空っぽだから、空き容量はあるんだ。空っぽだから、なんでも出来るんじゃないかな。
こんな感じでいいのだろう。うん。よし決めた、この曲のタイトルは
ーーごめん、君のことわかってなかった。
ーーもう、終わりにしようよ。一切合切。
ーーそうだね、ごめんよ。君にばっかり押 し付けてしまったね。
ーー思い出話なんてもういいよ。
ーーそうか、ごめん。
「君を好きだという気持ちに嘘はないけど、君に好きだと嘘をついたことはあるの」
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