1.燕は職業を嘯く

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1.燕は職業を嘯く

~イーナの街~  その日、男は焦っていた。 「な~にもない、か~ねもない。金がないから家がない~。」  男は旅人の街 イーナに訪れた。 先刻、彼は住んでいた家を失ったのである。 「なーんて言うかな、別にこっちも好きで貧乏してる訳じゃないんだよね。戦うのは苦手だしさ。戦わないと金が産めないシステムっておかしいよね。ねぇどう思う?そこの君」 「誰だおめぇ。」 「なーんか君、強そうだね。僕と一緒にモンスター退治しない?あ、僕は戦わないからね」 「なんだおめぇ…」 「いやいや、お金が無いんだよ。モンスター退治するしかないじゃないか」 「働けよ。」 男は、自信ありげに言い放つ 「僕の仕事は、詩を詠むことさ。」  旅人の街 イーナは寛容な街である。 このように突然話しかけても、殴り掛かられない程度に。 「はぁ…ここ旅人の街でしょ…!!魔法を使える人の1人はいるでしょうに…!」  女は憂いていた。なぜこの街には魔術師が居ないのか、と。 「はぁ…ここ旅人の街だよね…強い人くらい居そうなものなのになぁ」  男は憂いていた。なぜこの街の人達はモンスター退治を手伝ってくれないのか、と。 「そこのお兄さん!どうだい!1杯やって行かないかい!!」 「お兄さんって僕??若く見られるっていいよねぇ…でもごめんねぇ、無一文なんだ。」 「え…この旅人の街で無一文って…あんた飛んだ甲斐性なしだね…」 「失礼な、僕はこれでも一流の吟遊詩人なのさ!」 「吟遊詩人??そんな職業、聞いたことないや」 「ふふ、驚きたまえ、僕は詩を詠むことを仕事にしているんだ。」 「その仕事は失敗してるみたいだね。さぁ帰った帰った、声掛けて悪かったよ。あ、そうだ、金がないならギルドに行ってみるといいよ。ステータスネックレスってのを発行してもらえれば、仕事も貰えるし、モンスター退治の報酬も跳ね上がるんだよ。」 「ギルド??へぇ、この街にも。行ってみようかな。」 男は向かう。自称吟遊詩人 ツバクロはギルドへと向かう。 ~ギルド室内~ 「この街には、魔術師は居ないのですか!?いや、魔術師じゃなくてもいい。ヒールを使える人はいないの!?」  ヒール。それは回復魔法。魔術師にとって一般的な魔法である。 「なんだろうねぇ、騒がしいねぇ。まぁいいやっ。ねぇねぇ、お姉さん!ステータスネックレスの発行をお願いします!!」  ステータスネックレス。それは個人証明。種族、職業、レベル、その他諸々が書いてある。 「はい、ステータスは発行されたことはありますか??教会で自身の職業を聞いたことはありますか?」 「発行はしたことないねぇ、職業に関してはバッチリさ!僕は吟遊詩人。一流の吟遊詩人!」 「吟遊詩人…?そんな職業あるのかしら。聞いたことないわ。あなた、名前は?」 「ツバクロという者だ。ツバクロ・シャロ。」 「そう、ツバクロさん。簡易的だけれど、ここで職業を調べさせてもらうわね。」 「吟遊詩人と言っているだろう!全く、でもこれをしなければ、ステータスネックレスが発行されないんだろう?仕方ないなぁ。」  光が溢れる。文字が浮び上がる。 「ということで、ツバクロさん、あなたは魔術師よ。」 「そんな訳が無いだろう!?!?僕は吟遊詩人さ!おじぃがいつも僕に言ったんだ!お前は吟遊詩人なんだぞって!!」 「そう言われましても…と、とりあえずこれ、ステータスネックレス。無くさないでね。」 「はぁ…受け取っておくよ…僕は吟遊詩人なのになぁ…おじぃ、色んな詩を教えてくれたじゃないかぁ…。」  自称吟遊詩人ツバクロはトボトボと店を出る。  同刻、女はギルドカウンターに話を聞いた。 「ねぇ、今の人、魔術師って!本当??」 「え、えぇ。適性は魔術師だったわね。でも、自分のことを詩人って言ってる変な人だったわよ?」 「それでも構わないです。その人の名前は?」 「ツバクロ・シャロって言ってたわよ。」 「ツバクロさん…わかりました!ありがとうございます!」 ~イーナの街~  見事、自称吟遊詩人、本職魔術師となったツバクロは行く宛てのない道をトボトボと歩いていた。 「どうしたもんかなぁ、吟遊詩人じゃないなら旅をする意味もないじゃないか。行く先々で詩を書き連ねてってのが僕の旅の目的なのになぁ。君はどう思う?」 「だからてめぇはだれなんだよ。俺は相談役じゃねぇんだ。」 「この街で初めて話しかけたのが君だからね、しかも強そうだし。僕と一緒に…」 「仲間になれってんならお断りだ。」 「そんなもんだよねぇ。」  そして女は声を荒らげる。 「そこの!魔術師の人!!」 「いや結局さ?僕一人じゃ戦えないんだよ。ほら僕、吟遊詩人だし。」 「だから、吟遊詩人ってなんなんだ。そんな職業聞いたことねぇよ。」  そして女は声を荒らげる。 「ツバクロさん!!!!!!!!」 「僕???僕の名前ってそんな有名なのかな。嬉しいなぁ。」 「あなた、魔術師なのですよね?ヒールは使えますか??」 「吟遊詩人ですので、ひーるとやらは使えません!」 「え、えっと…人違い?」 「いえ、僕は正真正銘のツバクロですとも。」 「ちょっと、ステータスネックレス見せてもらっていいですか?」 「どんぞ~」 「これ、ヒール使えるじゃないですか。しかも魔術師だし!」 「あんらま、ホントですねぇ。僕は吟遊詩人なのになぁ。」 「とにかく来て!!私の友達が…ゴブリンにやられて、大怪我を負っているの!」 「…場所はどこだい。」 「え、こ、こっちです!」 「おい、一言くらい言ってから行けよな。」
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