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二度、カップに口をつけて、浅岡さんは視線をよこしてくる。よこした視線は、私の目は見ずに、頭上を通過する。あ、その上目遣い、ラブリー。私のこころが、ちょっと跳ねる。
大人のひとなのに、可愛らしくて、私はうふふと笑ってしまう。そんな私に、浅岡さんは怪訝な表情を浮かべる。
「“元気ですか”って送ったの。クマの可愛いデコメ」
彼はますます眉をひそめる。
「何故に“元気ですか”なの?」
新聞に夢中になっている、あなたの気を引きたくて、と、こころの中で通信してみる。
「その上“クマの可愛いやつ”って。クマって可愛いか? 獰猛だよ。ひと殺すんだよ」
結局こころの通信は無理だった。私は彼の言い草にほっぺをぷぅ、と膨らませた。
私が何も言い返さないでいると、彼はまた新聞を広げた。気が反れてしまったみたいだ。
「つまんないの」
私は、息を吐き、肩肘をテーブルにかけた。
言ってはみたものの、つまらなくは、なかった。
浅岡さんと一緒なら、会話がなくても、充分楽しかった。
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