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私は、ちゃっ、と制服のポッケからスマホを取り出し、可愛らしいアニメ調のクマのデコレーションメールを、ものの数秒で作り、ぴっと送信した。そして、そ知らぬふりをして、私は浅岡さんの様子を見ていた。
ふ、と何かを感じ取ったようで、彼は黒のコットンパンツのポッケからケータイを取り出した。
相変わらず、分厚くて重たそうなガラケー。
「文字化けしている」
浅岡さんは無表情のまま言った。
「何送ったの? 板橋」
「デコメ。だって浅岡さんラインできないんだもん」
「デコ……? ああ、デコレーションメール?」
彼は唇をアヒルのように尖らせて首を傾げる。瞳が、こちらを向きそうで向かない。
浅岡さんは、滅多に私と目を合わせてくれない。人間として非常識だと思う。
「僕の携帯、古いから。きちんと変換されないんだよ」
分厚いケータイを、ぱき、と二つに折りたたむと、テーブルの上に、ことんと置いた。
「赤外線なんて機能も、ついてないからね」
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