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 「彼女の美しさに見惚れ、傍にいられる幸福に浸りながら時は過ぎ、また、何とか会う約束を取り付けた。  そこまでが私にとって生涯一と言っても良い、幸せな時間であったに違いなかった」 「約束を反古にされたのですね?」  森本は頷いた。力ない頷きだった。 「あのカフェで、私は一日中彼女を待っていた。店を閉める時間になって漸く、腰を上げたのだ。  私は何も知らない。彼女の名前も年齢も、何処に住んでいるのかも……。  知っているのは、アカだろうことだけ」  そう言うと、洋史に視線を向けた。今度は君の話す番だと、その目は語っていた。 「僕が彼女を探しているのは、いと……弟の死を伝える為です」  森本は表情を変えぬまま、弟……と呟いた。  どう言えばいいのか。洋史は考えた。森本は蕗子らしき女に対して愛情を持っていると今しがた話したばかりである。その相手に対して、恋仲であったらしいと伝えるのは、無神経な気がした。 「二月前に弟が他界しました。それを彼女に伝えたいと……。  ただ、正直に申しますと、森本さんが会っていた御婦人が本当にその人なのかははっきりわかってはいないのです」
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