欲望

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 「いいじゃないか。一晩くらい眠らなくても死にゃしないよ」  味噌汁を椀に注ぎながら、梅子は屈託ない。  洋史の横顔を眺める。  似ている。  夏の強い日差しをものともせぬ白い肌や、一重の目。  以前に比べれば男らしくなったものの、頼りない印象を与える線の細さ。  運動を好まず、本に齧り付く性格も似ていた。  芸術を愛する心も。  大事な従兄弟だからこそ、この異常な考えを知られたくなかった。 (距離を置くべきなのだ。なにも起こらない内に)  まだ夏の陽の残る、十七歳の晩夏。  二人の良好な関係は、この日を最後に終わりを告げた。 
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