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剃刀を頬から手首に移し、静かに目を閉じた。
薄い刃物の感触が、手首にひんやりと伝わる。
勢いを付けて、それを引く。
焼けるような痛みが神経を走り、直通は剃刀を床に落とし、傷付いた手首を手の平で押さえた。
(これでいい。これでしばらくは凌げる)
手の平に写った血の線を、涙に滲んだ目で見つめる。
脳天を突き抜けるような痛みが体中を駆け抜けても、滲む血が自分の物であると分かっていても、今の直通には満足できた。
問題は、いつまで保つか。であろう。
とにかく、洋史との関わりは一切断つべきだと考えた。
間もなく、自らを傷付けているのを梅子に知られ、洋史の父親の元に連れて行かれそうになったものの、それだけは嫌だと突っぱねた。
連れて行くなら、出て行く。と。
部屋に閉じ篭り、耐え切れなくなると自らに傷を付け続けた。
血を見たいならば手首よりも、指先の方が良いことも分かった。まるで石榴石のような、毒々しい赤色の液体が玉を成して、直通を喜ばせた。
が、二年と経たぬ内に、直通の怯えは現実となった。
もはや自らの血を見ているだけでは我慢できなくなってしまったのだ。
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