欲望

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 変わり果てた跡取りの様子に、両親は言葉少なになってしまった。  手首を切り始めた頃には、頻繁に来ていた津川からの使いも、最近はなりを潜めた。  全ては、直通が壊してしまったのだ。  梅子から聞いた話によると、洋史は今、美術学校に通っているという。  芸術に理解のない父親をどう説得したのか。  医者になろうとしない洋史に、諦めを持ったのだろうか。  長男と三男が医者になると言っているのだから、一人くらい違う道を歩いたところで問題はあるまい。  洋史は自分をどう思っているのだろうか。  もう、見捨てているだろうな。  などと、自らが望んだ事とはいえ、寂しい思いに心が支配される。 (いや、これでいいのだ)
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