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「元気そうで良かった。
今は美術学校に通っているんだって?」
洋装姿の直通は、首から下をすっぽりとインヴァネスで覆っていて、盗み見たい場所を晒しはしない。
「直通、問いたいことがある。
その……三年前になるか……」
「なぜ、自死しようとしたか」
洋史は視線を落としたまま、頷いた。
「自死ではないのだよ」
言いながら左腕をインヴァネスから出すと、つい。と、シャツの袖を引っ張った。
手首が露わになる。洋史が最も見たかった部分が。
洋史は目を凝らし、腕を凝視した。
細い腕には、幾筋ものミミズ腫れが確認できた。
腕ばかりではなく、手の平にまで。
横に、縦に、幾筋も交わって。
「剃刀で切った」
「これのどこが自死でないと言うのだ? どう見ても……」
「自死ではない。殺そうとしたのだ」
「殺す? 自分をか?」
「君だ。君を殺そうとした」
洋史は耳を疑いつつ、直通の目を見た。
聞き間違いであることを祈り、からかいであることを願いながら。
「深くは問わないで欲しい。自分でも理解できぬのだ。どうして君を切り裂きたいのかなど。
いっそ、死んでしまいたいと思うのだが、死にきれず、生き永らえている」
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