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(あの皮膚の下に、なにがあるのかを僕は知っている)
従兄の津川洋史の眠そうな横顔を見ながら、人見直通は考える。
藍染めの蚊帳の中、障子の向こうでは気の早いこおろぎが優しい音を奏でていた。
「僕の前では寝ないでくれ給え」
日だまりの良い匂いのする布団に寝転んだまま、洋史は、うん。と答えながらも、ゆっくり、ゆっくりと頭を重くしていく。
「おい、君の布団は隣の部屋に敷いているだろう」
自分の前で眠らないで欲しい。
それだけの願いを叶えようともせず、洋史は無邪気な笑顔を見せながら、瞼が重くなっていくのに抗う様子は全く見せない。
「寝るなと言っているだろう」
ぴしゃり。と、寝間着の上から太腿をひっぱたいてみるものの、若者の、眠りに対する貪欲さに打ち勝てるはずもなく、洋史は易々と睡魔に囚われた。
「起きろよ! 起きてくれよ……」
喉が渇く、声が掠れる。
なんとかして起こそうと揺す振り続けるが、洋史は瞼を上げようとはしない。
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