39人が本棚に入れています
本棚に追加
心臓が普段よりも、大きく音を鳴らしている。
洋史の肩を、揺す振っていた手が止まる。
自らの恐ろしい考えに、耐え切れなくなりそうだった。
爪が肩に食い込んでいるのを、気にしている余裕などありはしない。
こおろぎの声が、耳に伝わらない。
聞こえるのは自分の、荒い息ばかり。
日焼けの見当たらない白い肌が、直通の視界の全てだった。
この白い肌の下に有る物はなにか。
普通の人なら知らぬそれを、直通は知っている。
いや、教えられた。
危険だと思った。
周りを見渡す。
刃物が無いのを確認しているのか、刃物を探しているのか、直通自身が理解できないまま。
体が震え出し、歯の根が、ガチガチと音を立てる。もう我慢できない。と、理性が悲鳴を上げた。
このままでは直通が直通ではなくなる。と。
立ち上がると、部屋を飛び出した。
無防備に眠る洋史を残して。襖を開け放したまま。
暗い隣の部屋にも、同じ藍染めの蚊帳と、白い布団が用意されていた。
直通は布団に潜り込む。
暗闇に浮かぶのは、赤い、赤い血。
瞼の裏に曼珠沙華のように花開いては消えていく。
最初のコメントを投稿しよう!