皮膚

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 心臓が普段よりも、大きく音を鳴らしている。  洋史の肩を、揺す振っていた手が止まる。  自らの恐ろしい考えに、耐え切れなくなりそうだった。  爪が肩に食い込んでいるのを、気にしている余裕などありはしない。  こおろぎの声が、耳に伝わらない。  聞こえるのは自分の、荒い息ばかり。  日焼けの見当たらない白い肌が、直通の視界の全てだった。  この白い肌の下に有る物はなにか。  普通の人なら知らぬそれを、直通は知っている。  いや、教えられた。  危険だと思った。  周りを見渡す。  刃物が無いのを確認しているのか、刃物を探しているのか、直通自身が理解できないまま。  体が震え出し、歯の根が、ガチガチと音を立てる。もう我慢できない。と、理性が悲鳴を上げた。  このままでは直通が直通ではなくなる。と。  立ち上がると、部屋を飛び出した。  無防備に眠る洋史を残して。襖を開け放したまま。  暗い隣の部屋にも、同じ藍染めの蚊帳と、白い布団が用意されていた。  直通は布団に潜り込む。  暗闇に浮かぶのは、赤い、赤い血。  瞼の裏に曼珠沙華のように花開いては消えていく。
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