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森本も胡瓜のサンドウィッチを口にすると、実は……と漸く始めた。
「彼女と会ったのはあの日が二度目でしてね。とあるカフェで彼女を見つけたのです。
美しかった……。しばし見惚れた後、思い切って声を掛けたのです。
誤解されませんよう。私は邪な気持ちで声を掛けたのではございません」
慌てたように言うと、紅茶に口を付けた。そうしてそれを飲み下すと、いいえ。と、項垂れた。
「正直に申しましょう。私は一目惚れをしたのです。五十を過ぎて何年にもなるいい年をした男が、少年のような気持ちで彼女を欲したのです。妻も子も、孫すらも忘れてしまうような時間を過ごしました。
それこそ初恋のようでした。彼女と肩を並べ、美術館で絵画鑑賞をしました。彼女は言葉少なでしたが、時々、作者の意図しているだろう事柄を絵の中から見つけ出し、語ってくれました。
それだけで私は嬉しくて、胸がどきどきと高鳴りました。
風景画にはほとんど関心を示しませんでした。宗教色の強い作品を真剣に見ていたかと思うと、宗教と恋愛は似ているように思われます。と言いました」
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