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 本音ではあるまい。と、洋史は考える。二人で珈琲を飲んでいる姿を思い出せば、女には確かに、雪女の冷たさが存在していたけれど、森本からは無私の愛を感じなかった。  あの手を握りたいと、あの唇に触れたいとその目は語っていた。  そもそも、無私の愛が人の愛に存在するのだろうか?  洋史自身、有紀への愛情は無私ではないと理解している。  自分だけを見つめて欲しい、自分だけの存在であって欲しい、その思いは募るばかりである。  勿論、手を握りたいと思い、唇に触れたいと思い、抱きたいとも思う。  恐らく無私の愛は、乳飲み子に対する母の愛情くらいではないかと考える。もしかしたらそれすらも、丈夫に育って欲しい、立派な人間になって欲しいとの気持ちが既に、無私ではなくなっているかもしれないのだ。  女は、森本の気持ちに気付き、牽制していたのだろう。森本自らに、女に触れぬと約束させていたに違いない。 「女は名乗らなかったし、私の名を聞きもしなかった。そうして夕方、帰ります。と冷たく言い放ったのだよ。  私は慌てた。また会いたいと望んでいたのだ。だから彼女に、また会って欲しいと懇願した」
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