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 「彼女は冷たい表情のまま、それはやめた方が良いと言った。  どうしてかと問う私に、私はこの唇のような色の組織に属しておりますから。と、真っ赤な唇に人差し指を当てた」  思わず顔を上げ、森本を見た。視線がぶつかり、森本は不敵な笑みを見せた。  赤い組織。それは即ち、社会共産主義組織に違いない。 「津川さんはご存知だったのですね?」  洋史は即答を避けた。  洋史の無反応は森本の予想の範疇内だったらしく、直ぐに口を開き始めた。 「私はそれでも、貴女に会いたいと伝えた。そうして、あの日、出会ったカフェで待ち合わせ、軽い食事を済ませてから銀座をブラブラして、ここに来たのです。  呆れた考えだが私は、彼女を自慢したかった。だから、親しくしている美木多の店に来た。  彼ならば見知らぬ女とランデブーをしていようとも噂にはすまいし、彼女の秘密を知ったとしても誰にも話しはすまい。と」  美しい女を連れていることを自慢したかったのだろう。無邪気な顕示欲とも言える。 「皆が彼女を見ていた。細君を連れている男まで、いや、その細君さえもが彼女に見惚れていた。私はそれが嬉しく、誇らしかった」
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