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洋史は平助に借りた写真を、テーブルの上に置いた。森本が息を呑むのが分かった。
「高島洋子と名乗っていた女優でした。大部屋女優で仕事が少なくなったのを気に病んでいた時、共産主義の人間に、自分達が国を動かすようになれば、映画も国営になるからお前を主演女優にしてやると言われ、協力するようになったようです。
弱っていた為に、その気になってしまったのでしょう。すぐに後悔し始め、組織を抜けようと考え、家に戻ろうとしたものの戻れず、途方に暮れている時に弟と出会ったのだと、生前弟と親しくして下さっていた人から聞きました。
高島洋子の地元でしたから、彼女が主義組織に入っていたことは、その界隈では公然の秘密でした。
弟が高島洋子と親しくなるのを、止める人も少なくなかったようです。しかし、二人はどうやら、手に手を取って新天地を目指す約束をしていたらしいと……。
しかしどうやら彼女が、何も言わず弟の元を去り……」
「まさか君の弟さんは自ら……」
「いいえ、弟の死は事故でした。溺れる子供を助けて、力尽きたのです」
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