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美木多がセッティングしてくれたおやつを頂く。あの日、蕗子らしき女が食べていたシュー・ア・ラ・クレーム。白魚のように美しい指で千切っては、赤い唇に放り込んでいた。
一見すれば無造作にも見えるその仕草は、シュー・ア・ラ・クレームを食べ慣れていると物語っていた。
無造作でありながら上品さを失わず、高級な西洋菓子にも興味らしい興味を見せぬ態度は、資産を有する上流階級の婦人だと物語っていた。
そんな特権階級の人間が主義者?
蕗子なら分かる。彼女は庶民の出である。社会共産主義思想を知って、共感する可能性は少なからずある階級の出身なのだ。
「別人なのか? 僕が見た女は、蕗子に似た誰か?」
華やかな映画の世界にいたのだから、庶民に比べればご馳走を食べる機会も多かっただろう。
しかし、あの食べ方は生まれついての上流階級だと洋史には思えた。
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