暴力

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 人は珍しい物を見れば興味を示す。好奇心を示す。形を鑑賞し、匂いを嗅ぎ、舌で味を確認する。そうして感動や期待はずれだったな。などの感情を示す。  しかしあの蕗子らしき女は、家人の作ったお握りを食べているかの如く、何の興味も示さなかった。  庶民であればそうそう、贅沢な西洋菓子を口にする機会などありはしないだろう。  クレームをシュー皮で掬いながら減らし、少しずつ千切って食べるのは、慣れない洋史には難しかった。どうしても皿にクレームがこぼれてしまう。  食べ終えて、クレームに汚れた指を拭きながら、森本と女が出会ったカフェに行ってみようと考え付いた。  今日はもう一時間もすれば、有紀を迎えに行かなければならない時間になるので、明日。と。  昨日と同じくカフェーで待ち合わせ、二人して珈琲を一杯ずつ飲んだ後、帰宅の途に就いた。  角を曲がれば家が見えるという場所で、小柄な男が現れ、有紀が立ち止まる。洋史は有紀を庇う様に立ちはだかると、男を睨み付けた。 「話を聞け。お前等にとっても悪い話じゃないはずだ」  黄昏時の薄暗さに、男の下種な笑みが、下級な悪鬼に見える。 「本当の父親を知りたくないか?」
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