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「昨夜遅く、小柴藤次さんが殺されました。
九時頃、馴染みの飯屋を出て、発見されたのが十二時。そういうわけで、藤次さんをご存知の皆さんに伺っています」
「僕は容疑者ですか?」
刑事は表情を変えることなく、興味なさそうにも見える態度を示した。
「まだ誰が容疑者なのかとは考えておりません。捜査を始めたばかりですから」
定型文のように思えた。
正直なところ、洋史は疑われても仕方はあるまい。
これからも藤次は有紀にしつこく付きまとうだろうことは想像に難くないし、本音を言えば、藤次が問題を起こし、逮捕されたら安心できるとさえ思っていた。
昨日、自分を殴るなりしてくれたら。と考えたりもした。自分勝手な人間の身勝手な行動が理解できず、どうすればよいかわからず、途方に暮れてしまった結果ではあったが、容疑者として挙げられない方がおかしいとさえ思えた。
下宿だから、同じ屋根の下に複数人が住んでいる。一軒家の一人暮らしよりは有利であるものの、風呂屋から帰ってからは一人部屋に閉じ籠っていた。
洋史は音を立てないよう気遣う性格であるから、両隣の住人は、洋史が部屋にいたことを物音で証言することもできまい。
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