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電気の光を反射させがら、段平は、ヒュッ。と鋭い音を残して、磔にされた女の肩にぶつかり、白い腕を床に落とした。
客席から悲鳴が上がる。
しかし、直通の口から悲鳴が漏れることはなかった。唾を飲み込み、見入った。
もったいぶった態度で男は、残りの手、足を切り離すとまた、もったいぶった様子で切った手足を元の場所に戻し、美女は元に戻るのだが、手足を切ると言う乱暴な行為に夢中になった直通には、残念な気持ちが残った。
あぁ、これは見世物、嘘の世界なのだ。と。
浅草では他にも、奇妙な物を幾つも見た。
手足が極端に短い男、腰の辺りで繋がった双子、蛇を食らう女。
しかし、美女解体ほど直通を引きつけたものはなかった。虚構の世界だと分かっても尚、人を切り刻むことに、興味の目を向けずにはいられなかった。
そんな自分が怖いと思いながら、止めることができない。
血の滴る音を聞きたいと、いつから思い始めたのか。すでに憶えてはいない。
近くに無防備に眠る洋史がいる。
今、意識を遠くしたならば、自らの欲望の虜になるのではあるまいかと考えると、恐ろしくてうっかり眠りの世界に向かうこともできない。
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