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直通は小さな頃から、洋史の家の子であったら。と、悔やんでいた。
和菓子屋の主が板につき、腹にも顎にも肉を蓄え、梅子の尻に敷かれている諭よりも、痩せており、亭主関白の伯父の方がずっと恰好良く見えた。
が、洋史は反対らしく、芸術に理解を見せない父親への反発の気持ちもあり、諭や梅子に懐いている。
クラシック音楽を聴くと言っては遊びに来、描いた絵を見て欲しいと言っては泊まりに来る。
以前は理解できなかったが、この頃は、そんな洋史の気持ちが、分かるような気がしてきた。
仕事ばかりで家庭を顧みない父親と、良人のいいなりの母親。家庭の温かさが足りないのだろう。
洋史はしきりに腕や足を掻きむしっている。蚊帳の中に蚊が入りこんだのだろう。
眠りの深い洋史はさぞかし、良い餌だったに違いない。
「眠れなかったのか?」
吞気な声に、直通は思わずきつい視線を向けてしまった。
「君に枕を取られていたからね」
「あれ? 枕が変わると眠れなかったっけ?」
そんなことはない。だが、本当の事を言うわけにもいかない。
「それは悪かった。知らなかったものだから」
「だから寝るなと言ったのだよ」
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