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千生。四月一日千生。俺ら5人の中に本当は居るはずだった人物。この6人席を一緒に埋める予定だった人。
俺らはいつも6人で幼い頃から行動を共にしてきた。生徒数の少ないあの地域では小学校からずっと変わることなく同じクラスだったし、何をするにもみんな一緒だった。無論それも、小学3年生の夏に俺らに突然言い渡された千生の死によって一生6人になることはなくなったのだけど。
「……章子を止めようとしておいてあれなんだけど」
気まずそうな拓斗がヤケになりながら追加で頼んでいたサワーを飲み、ゆっくり話す。さっきまでの賑やかな店内の声や音が少し遠くに聞こえ、俺らだけが、ぶ厚い膜に覆われてしまったかのような錯覚を覚えた。コン、カチャ、カン。このテーブルの上だけで響く静かで遠慮がちな食器の音。これが唯一俺らを冷静でいさせてくれた。
「俺もそれ最近聞いたんだ。その……かなり酷い虐待を受けてたって」
「待ってよ拓斗、そんなのわたし聞いたことないよ。それに、千生ってそんな風に見えなかったじゃん、いつも元気に笑顔で走り回ってさ、服だっていつも綺麗だったしなんなら可愛いワンピースとか着てたし、痣とかだって全然」
隣に座る拓斗に向かって反論する由依は自分と仲の良かった千生の死をこのメンバーの中で最後まで受け入れることが出来ていなかった。そんな中での今回の話だ、これをさあどうぞ受け入れてくださいというのも無理がある。
「由依に隠してたのは由依が千生のことを一番気にかけてたからだよ。それに痣とかも、普通は見つからないようにするだろ。見えないところに作ったり、ちゃんと育ててるように見せるために綺麗な服だって着せて。あとこれは勝手な想像だけど、千生だって俺らに心配かけたくなかったんじゃないかな」
最後の言葉を聞いて顔を覆い泣き崩れる由依。優しくその肩を包み手でとんとんとする拓斗がこちらに向けて「ごめん」と口パクで謝った。謝る必要なんてない。こんな話を、今はするべきじゃなかったんだ。
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