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「おい章子、お前飲み過ぎ。さすがにもうやめとけよ」
「……うん、ごめん」
ようやく場の雰囲気を察した章子は自分が作り上げた空気に押しつぶされそうになっていた。若干険悪なムードが漂う健志と章子の間を取り持つように、俺は無理やりにひとり明るい雰囲気を取り戻す。残っていたからあげを頬張り、生ビールで流し込む。もごもごと口を動かしながら精一杯の明るさをこの場に持ち込んだ。
「でもさ、ほらせっかく集まったんだしまた当分会えないんだからどうせなら明るい話しようぜ、伝説カップルを前にした俺ら3人の報われない恋愛話とか、な?」
「あ〜、優太お前最近別れたばっかだもんな」
「うるせえよ健志だってだいぶ居ないだろ、恋人」
無理やりにテーブルを明るくさせる俺に気づいた健志はっとしてその流れに合わせた。それに気づいた各々が少しづつ口数を増やし、声のトーンを明るくさせ、すっかり冷えきったつまみを口に放り込む。
そして気づく。俺が持ち込んだ明るさ以上にこのテーブルには生暖かい風が吹き、それはまるであの頃の、小学生の頃の俺たちみたいだと。
頭を痛める耳鳴りの後、キーンコーンカーンコーン、とチャイムが聞こえた。
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