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きゃっ、と小さく悲鳴を上げた由依がしゃがみこんで頭を抱える。
「それって千生ってこと?なんで?どうしてわたしたちに酷いことするの?」
「なあ、章子、その女の子白いワンピースとか着てなかったか?」
俺は夢のことを思い出し、尋ねた。病院の窓からはこんな状況には似つかわしくない眩い夕日が射し込んでいる。
「優太なんで知ってるの?」
「あ、いや……最近夢に出てきたんだ」
かくん、と力が抜けた由依はもう限界だった。顔を真っ青にして手を震わせ、必死に拓斗にしがみついている。それ以上由依に話を聞かせていたら悪化してしまう、そう考え由依と拓斗には先に帰ってもらうことにした。
人数が減り、静かになる病室。香る消毒液の清潔な匂い。
「……もう調べたり引っ掻き回したりしてないのに」
俯いてそう言う章子に健志は続ける。
「もしかしたらイタズラ、かもな。あいつイタズラ好きだっただろ」
「でもこんなのイタズラの範疇じゃないでしょ!」
「……あいつはまだ小学生、それも3年生だ。イタズラとそうでないことの区別がまだついてないんだ」
黙る章子と健志の間を生暖かい風が吹いた。あ、これ。まただ、と思いながも、言って説明がつくことでもなくただ言葉を飲んだ。
途端、膝を着くように力を抜く健志。
「おい、どうした、健志、健志」
「ちょっと待ってよ何が起きたの?何?」
ふらつきながら立とうとする健志に触れれば凄い熱さで。
「健志お前、熱っ」
「……おかしいな、さっきまで平気だったのに」
「健志、ここなら診察もできるけどどうする?」
「いや、いい。帰るよ」
「章子悪い、健志送ってくから今日はここらへんで」
「う、うん。お大事にね……」
ひとり病室に残される章子の顔は不安そうに曇っていた。
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