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休みを合わせた次の週末。俺たち5人は千生の祖母宅の前にいた。ここに来て上がる心拍数と、自分たちのしていることへの疑問。こんなこと、して意味があるのか。千生が本当に喜ぶのか。
震える手で押すインターホンその音まで震えて聞こえてくる。
『はい』
『あ、あの僕ら千生さんの友人で、えっと』
『お帰りください』
ピシャリと閉じられた会話。それでも諦めずにインターホンを押し続ける。ここまできて何も収穫なしに帰る訳にはいかない。
『千生さんのことについてお聞きしたいのですが』
今度は物腰柔らかく由依が話す。
『……お話することはありません』
『お線香だけでもお願いします』
『ほっといてください』
また、閉じられる会話。こうなったら少し無理にでも事を進めなければならない。
『……虐待してましたか』
まわりの全員に止められそうになるのを制止して続ける。
『千生さんのこと、虐待してたんですか』
するとガチャ、とドアが開き、記憶からはだいぶ老けた千生の養母が顔を出した。
「さっきからなんの真似?!警察がちゃんと調べて不起訴になってるでしょう?手は確かに出しました、けど少ししつけを厳しくしてただけです、貴方たちには関係ありません。帰ってください」
「……手は出してたんですね」
「あんな生意気な子、ちょっとやそっと叩いても平気なのよ、あの大人をバカにするような目でこっちを見るもんだから少し手を──あっ」
頃合いを見て健志が言う。
「もう大丈夫です。ありがとうございました」
何か文句を言いながら俺らを睨んでドアを閉めた養母。それを見て俺たちはやっと息を吐き出すことが出来た。刑事ドラマのようには上手くいかず、警察の真似事で録音していたさっきの会話。嫌疑不十分だったという事件に少しでも役に立つといい、そう思って近くの警察署へ届けた。
正直、こんなこと意味があるのか分からない。全てが自己満足だった。俺ら5人の自己満足なんだ。
「俺らのできることはやったよな」
緊張から放たれ力が抜けてしまっている由依を支えながら話す拓斗。
「そうだね。これ以外にできることなんてなかったよ。由依、みんなを進ませてくれてありがとうね」
章子も頷いて、由依の手を握る。
帰りは、養母の家のすぐそばにある千生のお墓に立ち寄った。ボロボロになり、雑草だらけの汚い墓を全員で掃除して綺麗にしてから花を置き、千生の好きだったお菓子をたくさん置いてから帰った。
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