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一軒の家の前で、リョーコが足を止めた。
崩れかけた壁に嵌まっているドアは、歪んでしまって閉まりきらず、風でパタパタと揺れていた。
中に転がる二つの遺体が、ドアの隙間から見え隠れしていた。
「どうした?」
カイトが声をかけるが、リョーコはそれに答えないで、その家に足を向けた。
パタパタ音を鳴らしているドアに手をかけ、中に入った。
カイトはそれ以上何も訊かず、リョーコの後に続く。
家の中の遺体は、銃弾を浴びていた。
男女だ。この家に住んでいた夫婦だろうか。二人はお互いを庇うように腕を広げていたが、仰向けに倒れていた。正面から撃たれたのだろう。
硝煙の匂いが鼻についた。
カイトは黙って、銃を抜いた。
銃撃されてから、時間がたっていない。
彼らを殺した者たちはまだ、近くにいるのかもしれない。
リョーコはだが頓着せず、部屋の奥に進んでいった。遺体を避け、奥にあった戸棚の扉に手をかけた。
そっと扉を開けた。
その手つきが優しげだったのを、カイトは意外に思った。
思わず固唾を飲んで見守る。
そこには二人の幼子が蹲っていた。
リョーコは黙って手を伸ばし、二人の呼気と脈を確かめていった。
「生きてるよ」
やっと息を吐いたように、そう呟いた。
「二人の子かな」
カイトが夫婦らしき遺体に目をやりながら言うと、リョーコは「たぶんね」とそっけなく返した。
俺たちが来たことで、二人の命は助かったわけだ。
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